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「なぜ届かない?」研究を形にするための思考と言葉を得た時間

東京科学大学
耳鼻咽喉科

伊藤 卓 様

事務局

本日はよろしくお願いいたします。まず、これまでのご研究について教えてください。

伊藤

こちらこそ、よろしくお願いいたします。

私は耳科領域の手術に携わりながら、CTを用いた3D可視化や、AR表示を活用した術中ナビゲーションの研究を行ってきました。研究自体は長年継続しており、学会発表や論文として成果をまとめるところまでは到達しています。

事務局

今回、このプログラムに応募された背景をお聞かせください。

伊藤

デバイス開発を進める中で、常に引っかかっていたのが「この技術が、実際にどのように社会に届くのか」という点でした。
学会では評価され、企業の方や共同研究の場でも「面白いですね」と言っていただけるのですが、そこで話が終わってしまうことが多い。
どの臨床シーンで使われるのか、導入のタイミングはいつか、初期導入を担うのは誰なのか——そうした問いに対して、自分の中で整理された説明ができていないことに、ずっと違和感を抱いていました。

事務局

「技術としては成立しているけれど、その先が語れない」という感覚でしょうか。

伊藤

まさにその通りです。
研究としては成立している。しかし、社会実装の文脈で語ろうとすると、言葉が途切れてしまう。
その経験を重ねる中で、これは自分の能力不足というより、「これまできちんと学んでこなかった領域なのだ」と思うようになりました。
それが、今回このプログラムに応募した理由です。

事務局

現在のご所属や、日常業務についても教えてください。

伊藤

大学病院の講師を務めています。
業務の内訳としては、半分以上が臨床で、手術や外来を担当しています。
約3割が学生教育で、医学部5・6年生の講義や試験問題の作成、教育全体の責任を担っています。
残りの2〜3割が研究です。以前は動物実験も行っていましたが、現在は臨床研究が中心になっています。

事務局

その忙しさの中で、新しいことに踏み出すのは簡単ではないですよね。

伊藤

正直、その通りです。
「時間がない」というのは言い訳でもありますが、臨床・教育・研究を同時に回していると、どうしても優先順位が下がってしまう領域が出てきてしまいます。

事務局

「社会実装」という言葉を、どのように捉えていますか。

伊藤

アメリカではあまり使われない言葉ですが、日本では、研究成果が商品化され、さらにそれが実際に広く使われるところまで含めて使われている印象があります。単に製品になるだけでなく、現場で使われ、定着して初めて「社会実装」だと思っています。
実際、商品化されたにもかかわらず使われていない医療機器は少なくありません。

 

I-Corps・BMCとの出会いがもたらした気づき

事務局

本プログラムが参考にしている、米国NIH/NSFのI-CorpsやBMCといった考え方には、これまで触れたことはありましたか。

伊藤

ほとんどありませんでした。
今回初めて、「これほど時間をかけて仮説検証やインタビューを行うのか」と知り、非常に衝撃を受けました。
研究というと、どうしても技術を詰める方向に意識が向きがちですが、「それは本当に必要とされているのか」を問い続ける姿勢が、これまでの自分には欠けていたと感じています。

 

医療機器が「使われない」理由を言語化する

事務局

臨床現場で、既存の医療機器に対して感じていた違和感はありますか。

伊藤

あります。特にナビゲーションシステムです。
臨床的には、必ずしも極端な高精度や多機能が求められているわけではないのに、操作が煩雑だったり、準備が大変だったりして、結果的に使われなくなる。
今回、POVやバイオデザインの考え方を学び、設計の初期段階でユーザー視点が入っていないと、そのズレは最後まで残るということを、はっきり理解できました。

事務局

今回の経験を経て、ご自身の考え方や行動は変わりそうですか。

伊藤

間違いなく変わると思います。
これまでは、「なぜリジェクトされるのか分からないまま」グラントを書いていましたが、今は「誰のペインを解決するのか」「実際に使うのは誰か」「企業はどう見るか」を意識するようになりました。

 

学習環境とツールの効果

事務局

Canvasなどのツールを使った学習環境についてはいかがでしたか。

伊藤

非常に良かったです。
他の参加者の課題や、メンターのコメントを見られることは大きな学びでしたし、文字起こしや各種ツールが、思っていた以上に簡単に使えることも分かりました。
「もっと自分で試してみたい」「組み合わせて使ってみたい」と思えるようになったのは、大きな変化です。

事務局

最後に、今回のプログラムを一言で振り返ると?

伊藤

「なぜ今まで分からなかったのかが、やっと分かった」という感覚です。
研究を形にしたい、社会に届くところまで持っていきたい。
そのための考え方と言葉を得られたことが、何より大きかったと思います。

 

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